d28  1200MHz 9エレメント・エレメント摂動励振クロス八木アンテナ                 2017/11/1

                                 せつどうれいしん       

 

このアンテナを使ってAO-92(1267.350MHz/10Wアップリンク)でQSOしています。2018/3/21

その後もAO-92 L/Vモードで数局QSOしています。

このアンテナは2016年にJARL自作品コンテストに出品したものです。結果は選外となりました。提出した原稿を少し修正して掲載します。

 

・用途・製作理由など

このアンテナはクロス八木アンテナの2本のラジエーターの長さを次のようにする。
①片側のアンテナのラジエーターを共振周波数より長くして誘導性(-45°)とし、もう一本の片側のアンテナのラジエーターを共振周波数より短くし

   て容量性(+45°)にして90°位相差にして円偏波にする。
②その誘導性と容量性の値を同じにして打ち消し合って必要周波数に共振させる。
③さらに2本の長さの差を大きくすると合成インピーダンスが高くなることが分かったので給電点インピーダンスを2本パラ接続の合成インピーダ

   ンスを50Ωにする。

④なお、誘導性のラジエーターと容量性のラジエーターの長さが違うので、同じ電力を入れたのでは違った強さの電波になって真円にならない。

⑤従って、それぞれのラジエーターのインピーダンスを変えて電波の強さを均等にする。
 この①②③④⑤を総合的にMMANAでシミュレーションして実現することによって、50Ω同軸ケーブルを直接接続できる円偏波クロス八木アンテ

 ナが出来た。
145MHz及び435MHzで6エレメント~14エレメント・円偏波クロス八木アンテナまで製作して、主に衛星通信に使っている。

 

なおこのアンテナの考え方はかなり昔から有ったようで数年前にJA9BOH/前川OMがクロスダイポールを作ってQRVしたのを知って興味を持った。 
理論的根拠についてはJH1GVY/森岡OMがホームページに公開している。(( 移相デバイスが不要なクロスダイポール http://www003.upp.so-net.ne.jp/JH1GVY/x-dp.html ))

 

145MHz及び435MHz用は自分のホームページに発表しているので、未発表の1200MHz用を出品する。

 

・特徴

1.ラジエーターのクロス部に50Ω同軸ケーブルを直接接続するだけで円偏波のアンテナになる。
2.軸比モドキ(垂直・水平偏波の最大電圧、最小電圧のdB差)は1.5dB程度
3.ゲイン、F/B比等の特性は通常のエレメント数相当のクロス八木とほぼ同等。
4.SWRの低い範囲が広い。(1200MHzバンド内はSWR2.0以下)

 

・説明・系統図など

1.MMANAによるシミュレーション結果
(1) 性能等
MMANAによるシミュレーションの性能目標を、周波数1295MHzにて抵抗成分R=50Ω±10Ω、リアクタンスjX=0±3Ω、SWR<2、アンテナゲイン13dBi以上、F/B20dB以上、軸比モドキ(垂直・水平偏波の最大電圧、最小電圧のdB差)3dB以下に設定し、シミュレーションを何回も行い下記の結果を得た。

(2) MMANAによるシミュレーション↓

なお、MMANAは1200MHzでは波長に対してエレメント径が大きいので周波数オフセットにより大きく周波数が低くなる模様で実用的では無いと云われている。
しかし、あえてMMANAでシミュレーションして、あとは「調整」で合わせ込むべき挑戦した。

(3) アンテナ形状および寸法
 シミュレーション結果に基づき下記に形状および寸法を示す。

      ↓ラジエーター部詳細図 ↓

 

1)ブームはABS樹脂角パイプ □15.9mm  https://item.rakuten.co.jp/jema/new-1284/
2)ラジエーターはφ4銅パイプ
3)その他エレメントはφ4アルミ棒
4)ラジエーター周囲の絶縁板はアクリル板(半透明)
5)給電部防水絶縁はアクリルラッカースプレー(クリヤー)
6)同軸ケーブルは2D-LFB-S(BNCコネクター)

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで云う軸比とは、軸比モドキ(垂直・水平偏波の最大電圧、最小電圧のdB差)↑↓

2) 出品アンテナは最大ゲイン点で1288.56MHz/-36.8dB
3) 出品アンテナ測定時はコネクターが3個多く有り、0.3dBのロスが有る。
4) 出品アンテナは直線偏波を受けたので、NY1200X9アンテナより3dBロスする。
5) 出品アンテナは軸比モドキ(垂直・水平偏波の最大電圧、最小電圧のdB差)最大の時の測定なので平均すると1.5/2=-0.75dBマイナスになる。
6) その他の条件は、NY1200X9アンテナと出品アンテナは同じである。
7) NY1200X9と出品アンテナの差∶(-36.8)-(-34.0)=-2.8dB
8) 出品アンテナゲインは、測定差-3.8+0.3+3-0.75=-0.25dBとなり、NY1200X9より0.25dB低いことになる。

9) NY1200X9アンテナのカタログ値∶15.1dBi、
10) 出品アンテナのシミュレーション値∶14.7dBi。
11) 出品アンテナ測定値∶15.1-0.25=14.85dBiとなって、シミュレーション値よりやや高い値となった。

注1)SWR、軸比モドキ(垂直・水平偏波の最大電圧、最小電圧のdB差)、アンテナゲイン等の測定は、栃木県産業技術センターの小型電波暗室でアマチュア向け簡易スペアナ(GigaSt)を使用して測定した。正確な測定器を使用して測定したものではない。
注2)測定方法等の詳細(GigaSt等含む)は参考資料に記述した。

 

参考資料(測定方法等)                                                                                   2016/4/20     
  概要
このアンテナはクロス八木アンテナの2本のラジエーターの長さを次のようにします。
①片側のアンテナのラジエーターを共振周波数より長くして誘導性(-45°)とし、もう一本の片側のアンテナのラジエーターを共振周波数より短くし

 て容量性(+45°)にして90°位相差にして円偏波にします。(Zo=(Z1+Z2)/2,  Z1=R1+jX1、Z2=R2-jX2、)
②その誘導性と容量性の値を同じにして打ち消しあって必要周波数に共振させます。( +jX=-jX=0 )
③さらに、このアンテナのシミュレーションをしながら気が付いたのですが、2本のラジエーター長さの差をある程度大きくすると合成インピーダ

 ンスが高くなることが分かりました。
④そのために給電点インピーダンス、すなわち2本パラ接続の合成インピーダンスを50Ωにすることが出来ました。(Zo=(Z1+Z2)/2)

  一般的にエレメント数が多くゲインが多くなると給電点インピーダンスが低くなります。
 435MHzでは14エレメント、16.3dBiまで50Ωに出来ています。

 

この①~④を実現することによって50Ω同軸ケーブルを直接接続できる円偏波クロス八木アンテナになります。
しかし、実際にはラジエーターの長さが違うので、それぞれのラジエーターに電力を2等分して加えたのでは円偏波にならないと考えます。
MMANAシミュレーションでは、その合成された結果のみが表示されるので最適なラジエーター寸法は法則が見いだせず、ひたすら寸法を変えながらシミュレーションを繰り返す結果となりました。
特に軸比最小点はエレメント長短の組み合わせにより何か所も有る模様ですが虚像と思しきポイントも存在するようです。たとえは45°の奇数倍とか。

 

また、一般的には共振周波数は、ラジエーター長が長くなれば低くなり、短くなれば高くなりますが、このアンテナの場合は部分的に逆になる場合が有ります。
さらに、これとは別に435MHz以下の周波数ではシミュレーション結果の寸法で作れば、ほぼシミュレーション通りの特性が得られますが、1200MHz帯では波長に対してエレメント径が大きくなり周波数オフセット(周波数が低くなる)が発生してシミュレーション(MININECを使ったMMANAの場合)はあまり実用的では無いとも言われています。

 

しかし、エレメント径は波長に対して太い方がゲインが見込めるので、ある程度太くしたいころです。
アンテナを構成する材料(材質)、製作誤差等々による違いも未知数です。
「パソコンによるアンテナ設計」小暮裕明編著他、によると、『エレメント径が0.0001~0.01λで周波数オフセットは0.25~2%以上となっていて、0.01λを超えると良い結果が得られない』と記されています。

 

そのために試験的に1200MHz 6エレメント八木をφ3エレメント(0.0128λ)で1295MHzでシミュレーションして作って見ました。
その結果は、1280MHzで最良となりました。(実測値SWR=1.15、R=53.3Ω、jX=+5.6Ω) 周波数オフセットは、予定より少ない15MHz低い(1.16%)となりました。

 

出品アンテナはゲインも考えてφ4エレメントで、1295MHzでシミュレーションして良い結果が出ました。
あとは調整で何とか出来ると考えて挑戦しました。

 

1.MMANAによるシミュレーション                            

①今回の出品アンテナは、φ4エレメントなので1280MHzに対して、0.017で周波数オフセットは2% 以上となり1295MHzが1269MHz以下になりそうです。
②シミュレーションはMMANAを使用し1295MHzで、寸法は0.1mm単位で行いました。
③シミュレーションは1295MHz、抵抗成分R=50Ω±10Ω、共振jX=0±3Ω、SWR<2、軸比モドキ3dB以下、アンテナゲイン13dBi以上、F/B20dB以上としました。
④シミュレーション周波数1295MHzを設定し、繰り返して何百回もシミュレーションを行い、軸比モドキ2.0dBを含めて下記の設定条件が得られました。

2.製 作
①エレメント寸法は±0.1mm以下にしました。エレメント間隔寸法は±0.2mm以下にしました。
②ブームの材質はABS角パイプを使用して金属による影響を無くしました。          
③ 給電部の絶縁板はアクリル板(半透明)を使用して、半田付け部が見えるようにすると共にて金属による影響を無くしました。                  
④同軸ケーブルは、2D-LFB-S(BNCコネクター)を使ってロスを0.6dB以下にしました。
⑤給電部の防水絶縁処理は、外部から見えるようにするためにアクリルラッカースプレー(クリヤー)を使用しました。(雨に濡れている時は

 SWR等に影響するが、乾燥すれば復元する)

 

3.測定と調整
SWR測定はAA-1400 、軸比モドキ及びアンテナゲインはGigaSt(後述)を使用しました。
測定場所は、栃木県産業技術センター、小型電波暗室。
①完成したアンテナのSWRを測定したら、SWR最低点が1280MHz付近でSWR1.2程度となりました。
 また、SWR最低点より低い周波数はSWRの上昇が緩いのですが、高い周波数は急激にSWRが高くなります。
②軸比モドキ(ARm)は最良の周波数が1276MHz付近でARm1.5dB程度でした。
  シミュレーションは1295MHzで行ったので、約20MHz(1.54%)低くなっていました。
  また軸比モドキは最良点の周波数は1276MHzと低くなりましたが値はシミュレーションとほぼ同じとなりました。
  当初考えていたより、かなり少ない周波数オフセットですがアンテナが純正の八木アンテナでないことが影響しているかも知れません。エレメン

  ト数(ゲイン)等にも関係するかも知れません。
③SWR最低点をもう少し高くして高い周波数が急激に高くなるのを無くすことにして、ラジエーターと同軸ケーブルの半田付けの半田の量を少な

  くして、SWR最低点を1290MHz付近にしました。                                      
   SWRの帯域が広いのは、このアンテナの特徴で435MHzでも体験しています。

                                                                 SWR ↓

4.測定方法(栃木県産業技術センターの小型電波暗室で実施した)                                       
①SWR、インピーダンス等の測定はアンテナ・アナライザーAA-1400を使いました。
②軸比モドキ、ゲイン等の測定の接続図 ↓

4.測定方法(栃木県産業技術センターの小型電波暗室で実施した)                                       
①SWR、インピーダンス等の測定はアンテナ・アナライザーAA-1400を使いました。
②軸比モドキ、ゲイン等の測定の接続図 ↑↑  
③GigaStは、アマチュア用に開発されたトラッキングジェネレータ付のスペアナユニットでパソコンに繋いで使います。
GigaStの詳細 http://www.wa.commufa.jp/gigast/GigaSt5/GigaSt-v5.html
使用範囲は3~4000MHz(SPは~12GHz)です。
④測定環境(栃木県産業技術センター、小型電波暗室で測定中)↓          自宅の測定サイト↓ (右上:送信、左下:受信)

                ↓電波暗室と自宅サイトを比較測定した結果はほぼ同じで有った↓


⑤GigaStのパソコン画面 ↓               
TGoutをSPinに同軸ケーブルで接続して送受の直線性を確認した。
1260~1300MHzまで-12dBでフラットになっている。

5.その他                                        
①SWR及びSWR最低点は、ラジエーターに接続する同軸ケーブルの芯線と編組の長さ及び半田の量等によって変化します。
②軸比は、φ4のラジエーターが銅パイプか銅棒かによって大きく違います。(今回はパイプ使用)
③ラジエーター部分の絶縁板はポリカーボネイト板かアクリル板によってSWR及び軸比は変化します。
④このアンテナが円偏波になっているか、及び右旋円偏波と左旋円偏波の確認は、435MHzでヘリカルアンテナを作って確認しています。
⑥435MHz、1200MHz共に正確な測定器で測定したいと思っていますが未実施です。
 ただし、測定場所は栃木県産業技術センターの小型電波暗室を借用して実施しました。
⑥このアンテナは、シミュレーションをしないと寸法等の設定が全く見当もつきません。
 そのような意味では1200MHzでは周波数オフセットが有ってもMMANAは有効に機能しました。また、1200MHzのインピーダンス、リアクタン

 ス、SWR等を簡単に測定できるAA-1400は有効に機能しました。
⑦このアンテナは、この3つのツールが無かったら完全に作ることが出来ませんでした。
 MMANAをフリーソフトで提供して下さったJE3HHT森OM、AA-1400を廉価で日本発売してくださったリグエキスパートジャパン殿および栃木

 県産業技術センター殿に感謝します。
⑧なお、この1200MHz帯 円偏波クロスアンテナは、最近検討されている大学等で打ち上げる衛星のアップリング用アンテナに応用できます。

 

付録

 

← クロス部拡大

 

左側が同軸ケーブル。
半田を少なくして周波数を高く(1290MHz)しています。
ねじM3×8ステンレスを使用しましたが、プラスチックねじにしても特性は変わりません。
屋外で使用する場合は、このクロス部を KE-45Tシリコンゴムを充填すると耐久性が向上します。
今回は展示用と云うことで、このクロス部を見えるようにするために、アクリルラッカースプレー(クリヤー)のみの塗布としました。

                              以上

 

参考資料2(アンテナ回転機構)                                        2016/5/24             
円偏波の測定には一般に市販されているローテータを使っていましたが、大きくて取り扱いが悪いので小型のローテータを作りました。
測定のために必要で有れば持参します。(持ち運びは容易です)
回転部分はプラモデルのモーターとギャーを使いました。
↓↓今まで使っていた一般に市販されているローテータ。

↓↓ 回転機構部分                                  
3VのDCモーターをPWMスピードコントローラーで1分間に1~5回転に制御できます。
モーターとギヤーは、プラモデルのTAMIYAから500~1500円で市販されています。
回転数を1/5000ぐらいにしているのでトルクが有り、小型アンテナを回転するには十分です。

駆動部分のモーターとギヤー部分を上図のように12V2RPM(12V,1分間2回転)の減速器付きモーターに変更しました。音も静かで快適です。

                                                 

                                      おわり